昨日、バスに乗ったときのことをお話しします。
所用のため都営バスに乗りました。入り口でお金を支払ってバス車内を見渡すと空いているいることに気がつきました。
もじゃもじゃパーマのサングラスの男性が腕組みしていた
私は空いていればバスの後部に座ります。昨日もいつものようにバスの後ろの方に行きました。
するとバス最後部の5人がけの席のド真ん前に中年の男性が座っているのが目に入りました。
どっぷりとおなかの出た男性は年の頃が40代。腕を組んで脚を大きく広げて座っていました。サングラスの奥にみえる眼光は鋭く、深くかぶった野球帽からはもじゃもじゃパーマがはみ出していました。サングラスをはずしたならば、強面がでてくることはまちがいないと思われたのでした。
「ただ者ではないな」
と私はすぐに悟りました。私はそのサングラスの男性の斜め前、後ろから2列目の座席に座りました。
車内にこだました携帯電話の着信音
私が着席して5分ぐらい経ったときのこと。私の背後から電子音が鳴りました。携帯電話の音です。
携帯電話の大きな着信音が車内をしばらくこだましたあと、「もしもし」と電話を取ったのはサングラスの男性の隣にいた中年女性でした。
その女性が「あのね? それはね?」と会話を続けているとバスのマイクを通じて、運転手さんが注意しました。
「お客さん、携帯電話の通話は禁止されているんですー!」
私はバスで運転手さんがそのように注意をすること自体あまり経験がなかったので驚きました。
「バカ!」と怒鳴ったサングラスの男性
さらに驚いたのはサングラスの男性が次のように怒鳴ったことです。
「うるせぇーよ、このやろう! 携帯電話はやめろっていってんだろ、このバカ!」
びっくりしました。初対面の、しかも女性に向かってバカと大声で叫ぶとは!
女性は怯えて「すみません!すみません!」と繰り返しました。私の周りの空気が凍りつきました。
サングラスの男性は次のように大声で続けました。
「携帯電話では禁止されてんだよ! あんた!せめてマナーモードにしとけよ!」
もしかしたらiPhoneを弄っていた私のことが視界に入ったのかもしれません。
女性は「すみません!すみません!」と繰り返すばかりでした。バスはそのまま走り続けました。
サングラスの男性「大阪じゃ、みんなバスで電話してる」
1、2分静寂が続いたでしょうか。沈黙を破ったのはサングラスの男性でした。
「おれもよぉ、バスで電話してたら運転手に注意されてよぉ、警察といっぺんもめたことがあんのよ」
女性に語りかけるトーンが幾分か落ちたことに私は気がつきました。
「バスでこんなに注意されるのは東京だけだよ。運転手の勝手な権限でいってるだけなの。オレも運転手とさんざん喧嘩したよ。警察とも揉めてよぉ。大阪じゃこんなことないよ? みんなバスの中で電話してるよ。」
サングラスの男性は続けました。
「あのね、せめてマナーにしときなさいよ。それでこっそり通話すれば運転手にばれないって。うまくおやんなさいよ。」
女性はもう堪忍してくれといわんばかりに「すみません。すみません。」と繰り返しました。
「おらぁ、これから品川プリンスに行くんだけどよぉ、大事な会合があんのに携帯、忘れちまったよ。だからこっそり通話もできない。ガッハッハ」
サングラスの男性の乾いた笑い声のあと、車内は再び静寂に包まれました。サングラスの男性は時折「はぁー」「うぇー」などと小さく発しつづけました。
バスが目的地にたどり着いて女性が降車するとき、女性はサングラスの男性は「すみませんでした、どうもありがとうございました」といって立ち去っていきました。
終わりに
このバスでの中年男性と中年女性の二人のやりとりを通して考えさせられることがありました。それは女性がなぜ「どうもありがとうございました」と述べたのかということです。
サングラスの男性は女性にたいして「運転手と喧嘩したよ」「警察ともめたよ」「大阪ではみんなバスで通話しているよ」と述べました。
私が想像するに、これらはとっさの作り話でしょう。
たしかにサングラスの男性の相貌から本当に警察と揉めたことがあった可能性もありますw
けれどそれが事実かどうかはあまり重要ではありません。その場の空気を変えようという男性の判断と行動がポイントです。
人を叱った際、あとからフォローが必要です。なにか間違いを犯したとき、誰かがそれを叱ったとします。叱りっぱなしでは駄目なのです。
ときどき職場で上の人が下の人に対して叱ったりするのを見聞きすることがあります。責任のある仕事をしている以上、叱ることも必要なときも当然ありましょう。
しかし私がこれまでの職業人生で観察してきたところ、とげのある言葉だけで下の人を攻撃することは効果的な叱り方であるとはいえないと思います。サングラスの男性のようにちょっとしたネタをだしてアフターフォローをすること。あるいは自分の過去の事例の紹介をすること。これらを行うことで叱り方が反感を買わず、効果的になってくると私は考えています。
感情のままに人を叱るのは簡単です。しかしそれが効果的なものかどうかは、叱る人の技量に大きくゆだねられると私は思います。