月刊誌「MacFan」の「Xまでとどけ」でおなじみの漫画家 鈴木みそ先生が、Kindle ダイレクト・パブリッシングを通して1カ月で283万円を売り上げたと述べています。
鈴木みそが語る、マンガ家とKindle ダイレクト・パブリッシング(前編) – bizmash!:@nifty
鈴木みそが語る、マンガ家とKindle ダイレクト・パブリッシング(後編) – bizmash!:@nifty
鈴木みそ先生近影 なかなかかっこいいなw
このインタビュー記事を通して、鈴木みそ先生はご自身のおかれている状況を率直に語っています。
2012年には、仕事は増えないし原稿料は下がるし、紙の出版はもうダメだろうからどうやって食っていくか、考えていましたね。アプリ関係でイラストを描く仕事はないかとか、Webマンガで何か稼げる糸口はないかとか…。
ところが、鈴木先生は電子書籍に早くから着目していました。2010年の iPad発売, そして2012年の kindle の日本でのリリース。
そのような状況の中、「世間の関心が集まりつつも、品ぞろえが少ないというタイミングで」作品をリリースし、「限界集落(ギリギリ)温泉」がヒットし、1カ月で283万円を売り上げたそうです。結果論ではありますが、鈴木先生の目の付け所が正しかったことの証明です。
インタビューを通して驚かされたのは、鈴木先生の柔軟な姿勢です。たとえばマンガの表現手法のひとつである見開きの構図。従来、マンガ家はこの見開き構図を多く使ってきました。しかし電子化時代、この見開きページの手法が難しくなります。なかには難色を示すマンガ家もいたそうです。
ところが鈴木先生は次のように述べます。
でも、読む媒体自体が変わろうとしているんです。モニターに親和性が高い読み方は、縦スクロールなんですから、デジタル読書が一般化すれば、マンガも横で見せる紙の感覚とはまったく違うコマ割りや書き方になるでしょう。その時代が来つつあるのに、紙の見せ方にこだわっていてどうするんだ、と僕は考えますね。
読まれ方が変わろうとしているなら、とにかくそれに合わせてやってみるとかない。それでしかわからないことって、たくさんあるんですから。
鈴木先生のこの考え方、捉え方は非常に大事だと思います。いまプラットフォームが紙から電子に変わりつつあります。とくに週刊ベース、月刊ベースなどのサイクルの早いコンテンツは紙媒体よりも電子媒体のメリットが大きいです。
マンガを楽しみたいという読者のニーズは変わりません。しかし読書という行為を取り巻く環境ががらりと変わりつつあります。このような状況下において、パブリッシャー側は新しい読書体験を与えることが重要になってきます。それが前提にあるのだから、表現手法の変更(例:見開きページの消極化)を伴うことは当然の帰結であると、鈴木先生のインタビューを通して感じました。
これは音楽業界が10年前に経験したことの相似形であります。音楽を聴かせるのに、CDやMDにこだわるのか。音楽配信するにしてもガチガチのDRMをつけるのか。あるいはDRMフリーでいくのか。
たとえばレーベルゲート株式会社は昨年同社の方針を大きく変えました。音楽配信サイト「mora」ではAACを採用し、さらにDRMフリー化しました。
その対応は5年遅かったというのが私の印象です。iPhone 3Gの日本上陸にあわせて変更しておくべきだったのではと私は思います。
さらに電子時代のマンガ家の今後の課題についても、鈴木先生はイーインクのカラー化に触れながら作品のカラーへの対応を挙げ、次のように述べています。
紙の単行本だったらカラー版を出すとモノクロ版よりコストがかかるけれど、紙代、インク代がない分、電子ではカラーもモノクロもコストは一緒ですからね。
そうすると、僕たちはいつまでモノクロでマンガを描き続けるのか、という壁に突き当たります。すでに、Webサイトでの掲載を想定して、カラーで描きつつ、データをモノクロ変換して原稿を納品している作家も存在するんですよ。
カラー化は負担増、コスト増をマンガ家側に強います。これにどのように対応するのか。
鈴木先生にとってKindle ダイレクト・パブリッシングは一つの好機でありましたが、しかしまた新たな環境の変化が将来やってきそうです。
デジタル書籍時代は、漫画家、編集者に大きな変化への対応を要請しています。