Appleのデザイナー、ジョナサン・アイブ氏が2014年10月9日、サンフランシスコにて行われたヴァニティ・フェアの「The New Establishment Summit 2014」に登壇しインタビューに答えました。
アイブ氏のインタビューはiPhone 6と Apple Watchについても及びました。
またアイブ氏は、Appleのデザインチーム、デザイン原則、およびデザインのプロセスについて話をしました。たとえばAppleのコアデザインチームは、たったの16人で構成されていること。タッチインターフェイスが動作させられるかわからなかったため、第一世代のiPhoneをあきらめそうだったことなどです。
インタビューではスティーブ・ジョブズの話が出たり、聴衆からの質問で中国の新興企業シャオミに関して問われるなど、極めて刺激的な内容を含んでいます。
本インタビューをYouTubeとBusiness Insiderの記事を踏まえて再構成して日本語訳しましたので、ぜひご覧ください。ヴァニティ・フェアのグレイドン・カーター氏:AppleのiPhoneは評判が高いです。まもなくAppleの時計が出てきます。Appleは世界で最も価値があるブランドの一つです。あなたは世界で最も優れたインダストリアルデザイナーの一人です。ジョナサン・アイブでいることの好ましい面と否定的な面はなんですか?
ジョナサン・アイブ氏「あまりにも長い時間「ジョナサン・アイブ」であることは否定的な面です。すぐれたデザインチームを15年から20年持っているのは好ましい面です。とてもラッキーなことです。自発的に辞めたひとはいません。将来Appleを離れた時、生み出したプロダクトのことよりも、どうやってプロダクト生み出したかのことを回想するでしょうね。毎日感謝しているんです。」
コアのデザインチームはどれぐらいの大きさですか?
アイブ氏「コアのチームは実際にはとても少ないです。16人か17人ぐらいです。過去15年かけて着実に大きくなっています。小さなチームであるよう努力してるんです。」
あなたのサンフランシスコにおける典型的な1日はどのようなものですか?毎朝クパティーノまで運転するのですか?何時頃?
アイブ氏「7時30頃です。音楽を聴いたり、電話をかけたり。すぐれたデザインチームの一員であることの利点の一つは、プロセスを開発するのに余裕があるということです。一週間のうち3回か4回ミーティングをします。Apple Storeで見るのと同じようなテーブルにデザイナーが集まり、共に働きます。テーブルの周りに立って、描きます。クリエイティブな過程にいられるのは本当に幸運です。私たちの図面から起こした実際のモノを持って初めて、着想が湧いてきます。私たちのチームを刺激して焦点を当てます。」
そのようなデザインの会議の場で、「発見した!と叫びたくなるような瞬間」があったことを覚えていますか?
アイブ氏「私たちがローンチしたばかりの電話です。触ることができるモノを目にした時は特別な瞬間でした。すべてが変わってしまう。いつもそうです。私は今でも最初のモデルを手にするときはいつでも驚くしワクワクしますよ。」
iPhone 6を初代のiPhoneのように丸いふち(エッジ)に戻したのはなぜですか? 角ばっていた方が簡単につかめます。
アイブ氏「数年前、大きな画面をもったプロトタイプを製作しました。ノートブックみたいに大きな画面を持つというのは興味深い特徴でした。しかしそれらは不格好だったので、結果はお粗末なものでした。私たちの競合他社が依然としてそうであるようにね。そのとき、魅力的な製品にするために、画面を大型化するのと同時にたくさんのことをする必要があるとわたしたちは認識したんです。iPhone 6 の丸いふちは、快適さと、幅広さをあまり感じないようにするために必要だったんです。」
iPhoneのように複雑なものを指示なしに送り出そうとしたのはいつでしたか?
アイブ氏「それは私たちがまさに取り組んでいることです。多くのひとびとにとって、直接触れる大きなディスプレイは明らかであり自然なことであるように思われました。9年前、私たちが最初にiPhoneにとりかかったときはそうではなかったのです。もし不可避であり明白だとしたら、私たちは数年前に行っていたでしょう。」
キャンディーバーのようなやクラムシェルのような携帯電話がありましたね。
アイブ氏「数年前、ボタンと画面はあまりに小さかったです。なぜなら同じ場所を共有しなければならなかったからです。わたしたちは両方とも妥協してはならなかったのです。大きな画面があれば文脈に即したボタンをもつことができました。」
あなたがAppleに入社する前に初めて触れたApple製品はなんでしたか?
アイブ氏「アートスクールにおいてですが、学校にあったコンピュータはひどいものでした。たぶん、私に問題があったのでしょう。技術的によくわからなかったのです。
なにか悪いものを食べたら、食べ物が悪いと思うでしょう。しかし、あなたが粗悪な製品を使ったら、自分自身が悪いと思うでしょう。
アートスクールではMacに出逢いました。オールインワンボックスのMacです。ショッキングな出来事があったんです。自分の人生ではじめて、製品をデザインし生産するということを一緒にやろうとした人々のはっきりしたセンスを感じました。私はすぐに 自分たちの価値感にとって実証するものがあると認識しました。
その時点から、コンピュータを作ったカリフォルニアの若者達に強い関心を抱きました。他のコンピュータはビープ音を出したりしていましたが、そのようなノイズ音を変えるようなコンピュータを彼らは作っていました。私は非常に興味そそられました。誰がこれをやったんだと知りたかったんです。」
あなたがインダストリアルデザイナーになりたいと思ったのはなぜですか? 芸術家や他のデザイナーではなくて?
アイブ氏「私ができる唯一のことがそれだったからです。奉仕している感じがあります。お互いのために道具を作っています。私たちの生活をより楽にするための道具です。崇高な考えだと思いましたし、たくさんの機会があると思いました。」
あなたが子どものころ、どんなものがよくデザインされていると思いましたか?
アイブ氏「ドイツのブラウン社のフードミキサーです。父と母が使っていました。とてもよくできていましし、美しかったことに衝撃を受けました。」
初めてカリフォルニアに来た時どうでしたか?
アイブ氏「大学でスポンサーを得ました。私は人々に出会いたかったんです。人々はとても親切で、忍耐づよかったです。」
職を断られましたか?
アイブ氏「仕事を求めてはいませんでした。中には私にその場にいるようを説得したひともいました。私に合ってくれとお願いした人は皆そうしました。」
どうやってAppleに落ち着いたのですか?
アイブ氏「私はAppleの社員に会いました。そしてロンドンに戻って自分のデザインをしました。Appleはデザイナーを求めるため、大きなワールドツアーを行いました。そして私を見つけました。
私は2つのミッションがありました。ひとつは PowerBook についてAppleと一緒に働くこと。そして、もうひとつは浴室のハードウェアを設計する英国の会社のためにセラミックの仕事です。二つのプロジェクトを対しすることは素晴らしかった。そしてAppleで働くことを決心したんです。」
あなたは機械の外側(見た目)をデザインしているんですよね?
アイブ氏「たんに見た目だけに注目していれば、いい仕事をしているとは言えないと思います。いい仕事をするには、内部構造もデザインすることになります。」
あなたがデザインするとき、最も大きかったやりがいがあるものはなんでしたか?
アイブ氏「タッチはおかしなものでした。私たちはなんども諦めそうになりました。それがうまくいくなんてわからなかったんです。」
時計に関して。
アイブ氏「時計にはずっと関心がありました。まず最初に時計は、ポケットが発明されるよりも前にデザインされたのです。首にかけられていました。そして懐中時計が発明されました。17世紀には指につける時計がありました。
機能性、有用性のため、時計の場所は手首に落ち着きました。100年以上にも渡って、手首に巻かれていることに気がつくことでしょう。歴史的な実直さがあるのです。情報をひとめできるようにするには実に素晴らしい場所です。
この時計に取り掛かり始めた時、科学技術が行き着く先として手首は自然な場所であるように思われました。」
スティーブ・ジョブズ氏と一緒に働いて得た教訓はなんですか?
アイブ氏「焦点を当てること。スティーブは私が人生の中であったなかで最も焦点を当てる人物でした。もしあなたが本当に焦点をあてたとしたら、それは恐ろしいことですよ。ほんのちょっと違法かのようです。たくさんのことを成し遂げられます。
スティーブはこういいました。「お前さんがだめだと言ったものは何個あるかい?」私には犠牲になったものがあります。私がそういうものをデザインするのに興味がないことを彼はわかっていたんです。
スティーブ・ジョブズと話していて、厳しいと見られているのはなぜかと尋ねたことを覚えています。もっと寛容になれないだろうかといったんです。彼は「どうして?」といいました。私は「チームを気にかける必要があるから。」
彼は言いました「ジョニー、違うよ。それではまったくの木偶のぼうだ。お前さんはひとびとに好きになって欲しいと思っているだけだ。驚いたよ。お前さんは仕事を最も重要なことだとして掴んで離さないと思っていたよ。人々にどうやって見られるかは気にしないと思っていたんだ。」
スティーブは焦点を当てるひとだったので、誤解されています。」
聴衆からの質問「中国のスタートアップ企業シャオミをどう思いますか。Appleのデザインをコピーしているとジャーナリストが批判しています。中国のAppleとまで言われています。彼らのやり方はAppleに賛辞を述べていると思いますか?」
アイブ氏「その問題についてというわけではなく、一般的にデザインを模倣することにかんしていうと、それは窃盗だとおもいます。たとえば携帯電話のように、何かを始めてやろうとすると、それがうまくいくかどうかなんてわかりません。長い時間働くわけです。そしてコピーされたら「ああ、賛辞を述べているんだ」とは思えません。
Appleのデザイナーは製品をデザインするのに多くの犠牲を払っている(家族と過ごすことができたかもしれない週末の時間)から、誰かがコピーしたらそれは侮辱的です。これは分かりやすい話です。窃盗であり怠惰です。OKだとはあまり思えません。」
聴衆からの質問「機能とデザインのバランスをどうとっていますか? 他社と比較して?」
アイブ氏「機能しない美しい製品は醜いです。私たちがこれまでやってきた最良のことは、完全に調和することです。デザインとはすべてのことです。美しさはうまく動作することの中にあるのです。」
以上がジョナサン・アイブ氏のインタビューです。私の私訳と再構成に基づきます。
ジョナサン・アイブ氏は Apple Watchを、消費者向け電化製品をデザインを超えた最初のステップであると見ています。Apple Watchは時計であり、なにかべつの「ガジェット」ではないとみていることは明らかです。いったいどんなプロダクトに仕上がっているのか、いまから楽しみです。
ジョナサン・アイブ氏やさいきんAppleのデザインチームに加わったマーク・ニューソンなど、素晴らしいデザイナーの珠玉のインタビュー映像が満載の映画「Objectified」を紹介します。Appleのデザインに関心のある人は必読のビデオですよ。
[via Apple’s Jonathan Ive in Conversation with Vanity Fair’s Graydon Carter – YouTube] [via Jony Ive Vanity Fair Summit Interview – Business Insider]